令和4年度 春期 応用情報技術者試験 午後 問2 経営戦略

テーマ:化粧品製造販売会社でのゲーム理論を用いた事業戦略の検討

目次

問2 化粧品製造販売会社でのゲーム理論を用いた事業戦略の検討に関する次の記述を読んで設問1〜3に答えよ。

A社は、国内大手の化粧品製造販売会社である。国内に八つの工場をもち、自社で企画した商品の製造を行っている。販売チャネルとして、全国の都市に約30の販売子会社と約200の直営店をもち、更に加盟店契約を結んだ約2万の化粧品販売店(以下、加盟店という)がある。卸売会社を通さずに販売子会社から加盟店への流通チャネルを一本化して、販売価格を維持してきた。加盟店から加盟店料を徴収する見返りに、販売棚などのじゅう器の無償貸出やA社の美容販売員の加盟店への派遣などのA社独自の手厚い支援を通じて、共存共栄の関係を築いてきた。化粧品販売では実際に商品を試してから購入したいという顧客ニーズが強く、A社の事業は加盟店の販売網による店舗販売が支えていた。また、各工場に隣接された物流倉庫から各店舗への配送は、外部の運送会社に従量課金制の契約で業務委託している。

A社の主な顧客層は、20〜60代の女性だが、近年は10代の若者層が増えている。取扱商品は、スキンケアを中心にヘアケア、フレグランスなど、幅広く揃えており、粗利益率の高い中高価格帯の商品が売上全体の70%以上を占めている。

〔A社の事業の状況と課題〕

A社の昨年度の売上高は7,600億円、営業利益は800億円であった。A社は、戦略的な観点から高品質なイメージとブランド力の維持に努め、工場及び直営店を自社で保有し、積極的に広告宣伝及び研究開発を行ってきた。A社では、売上高にかかわらず、これらの設備に係る費用、広告宣伝費及び研究開発費に毎年多額の費用を投入してきたので、総費用に占める固定費の割合が高い状態であった。

A社の過去3年の売上高及び営業利益は微増だったが、今年度は、売上高は横ばい、営業利益は微減の見通しである。A社は、これまで規模の経済を生かして市場シェアを拡大し、売上高を増やすことによって営業利益を増やすという事業戦略を採ってきたが、景気の見通しが不透明であることから、景気が悪化しても安定した営業利益を確保することを今後の経営の事業方針とした。①これまでの事業戦略は今後の経営の事業方針に適合しないので、主に固定費と変動費の割合の観点から費用構造を見直し、これに従った事業戦略の策定に着手した。

〔ゲーム理論を用いた事業戦略の検討〕

事業戦略の検討を指示された経営企画部は、まず固定費の中で金額が大きい自社の工場への設備投資に着目し、今後の設備投資に関して次の三つの案を挙げた。

(1) 積極案:全8工場の生産能力を拡大し、更に新工場を建設する。
(2) 現状維持案:全8工場の生産能力を現状維持する。
(3) 消極案:主要6工場の生産能力を現状維持し、それ以外の2工場を閉鎖する。

表1は、景気の見通しにおける設備投資案ごとの営業利益の予測である。それぞれの営業利益の予測は、過去の知見から信頼性の高いデータに基づいている。

表1 景気の見通しにおける設備投資案ごとの営業利益の予測
表1 景気の見通しにおける設備投資案ごとの営業利益の予測

景気の見通しは不透明で、その予測は難しい。ここで、②設備投資案から一つの案を選択する場合の意思決定の判断材料の一つとしてゲーム理論を用いることが有効だった。この結果、A社の事業方針に従いaに基づくと、消極案が最適になることが分かった。

次に、これから最も強力な競合相手となるプレイヤーを加えたゲーム理論を用いた検討を行った。トイレタリー事業最大手B社が、3年前に化粧品事業に本格的に参 入してきた。強力な既存の流通ルートを生かし、現在は低価格帯の商品に絞ってドラッグストアやコンビニエンスストアで販売して、化粧品の全価格帯を合わせた市 場シェア(以下、全体市場シェアという)を伸ばしている。現在の全体市場シェアはA社が38%、B社が24%である。今後、中高価格帯の商品の市場規模は現状維持で、低価格帯の商品の市場規模が拡大すると予測しているので、両社の全体市場シェアの差は更に縮まると懸念している。

経営企画部は、これを受けて今後A社が注力すべき商品の価格帯について次の二つの案を挙げた。ここから一つの案を選択する。

(1) A1案(中高価格帯に注力):粗利益率が高い中高価格帯の割合を更に増やす。
(2) A2案(低価格帯に注力):売上高の増加が見込める低価格帯の割合を増やす。

これに対して、B社もB1案(中高価格帯に注力)又はB2案(低価格帯に注力)から一つを選択するものとする。 両社の強みをもつ市場が異なるので、中高価格帯市場で競合した場合は、A社がより有利に中高価格帯の市場シェアを獲得できる。逆に、低価格帯市場で競合した場合は、B社に優位性がある。表2は、A社とB社がそれぞれの案の下で獲得できる全体市場シェアを予測したものである。

表2 注力すべき商品の価格帯の案ごとの全体市場シェアの予測
表2 注力すべき商品の価格帯の案ごとの全体市場シェアの予測

A社とB社のそれぞれが、相手が選択する案に関係なく自社がより大きな全体市場シェアを獲得できる案を選ぶとすると、両社が選択する案の組合せは “A社は A1案を選択し、B社はB2案を選択する”ことになる。 両社ともここから選択する案を変更すると全体市場シェアは減ってしまうので、あえて案を変更する理由がない。
これをゲーム理論ではbの状態と呼び、A社はA1案を選択すべきであるという結果になった。”A1案とB2案”の組合せでのA社の全体市場シェアは37%で、現状よりも減少すると予測されたものの、③A社の全体の営業利益は増加する可能性が高いと考えた。

後日、経営企画部は、設備投資及び注力すべき商品の価格帯の検討結果を事業戦略案としてまとめ、経営会議で報告し、その内容についておおむね賛同を得た。一方、設備投資に関してaに基づくと消極案が最適となったことに対し、”景気好転のケースを想定して、顧客チャネルを拡充したらどうか。”という意見が出た。また、注力すべき商品の価格帯に関して中高価格帯を選択することに対し、”更に中高価格帯に注力することには同意するが、低価格帯市場はB社の独壇場になり、将来的に中高価格帯市場までも脅かされるのではないか。”という意見が出た。

〔事業戦略案の策定〕

経営企画部は、前回の経営会議での意見に従って事業戦略案を策定し、再び経営会議で報告した。

(1) 売上高重視から収益性重視への転換
・低価格帯中心の商品であるヘアケア分野から撤退する。
・主要6工場の生産能力は現状維持とし、主にヘアケア商品を生産している2エ場を閉鎖する。
・不採算の直営店を閉鎖し、直営店数を現在の約200から半減させる。
(2) 新たな商品ラインの開発
・若者層向けのエントリモデルとして低価格帯の商品を拡充する。中高価格帯の商品とは異なるブランドを作り、販売チャネルも変える。具体的には、自社製造ではなく④OEMメーカに製造を委託して需要の変動に応じて生産する。また、直営店や加盟店では販売せずに⑤ドラッグストアやコンビニエンスストアで販売し、A社の美容販売員の派遣を行わない。
(3) デジタル技術を活用した新たな事業モデルの開発
・インターネットを介した中高価格帯の商品販売などのサービス(以下、ECサービスという)を開始する。2年後のECサービスによる売上高の割合を30%台にすることを目標にする。
・店舗サービスとECサービスとを連動させて、顧客との接点を増やす顧客統合システムを開発する。

新たな事業モデルにおけるECサービスでは、例えば、顧客がECサービスを利用して気になる商品があったら、顧客の同意を得てWeb上で希望する加盟店を紹介する。顧客がその加盟店に訪れるのが初めての場合でも、美容販売員は、顧客がECサービスを利用した際に登録した顧客情報を参照して的確なカウンセリングやアドバイスを行うことができるので、効果的な商品販売が期待できる。⑥この事業モデルであれば店舗サービスとECサービスとが両立できることを加盟店に理解してもらう。

経営企画部の事業戦略案は承認され、実行計画の策定に着手することになった。

設問1 〔A社の事業の状況と課題〕について、(1)、(2)に答えよ。

(1) A社として固定費に分類される費用を解答群の中から選び、記号で答えよ。

解答群
ア 化粧品の原材料費
イ 正社員の人件費
ウ 製造ラインで作業する外注費
エ 配送を委託する外注費

解答

解説

固定費とは、売上高や販売量に左右されず一定の金額が発生する費用のこと。
正社員の人件費は変わらず一定のため、固定費に該当します。

変動費とは、生産量や販売量に比例して増減する費用。
原料費、外注費は生産量や販売量に合わせ増減するので、変動費に該当します。

(2) 本文中の下線①のこれまでの事業戦略が今後の経営の事業方針に適合しないのは、総費用に占める固定費の割合が高い状態が営業利益にどのような影響をもたらすからか。30字以内で述べよ。

解答

売上高の増減に対して営業利益の増減幅が大きくなる

解説

『総費用に占める固定費の割合が高い状態』なので、生産量や販売量が変化しても支払う費用の変化も少ない。つまり、売上高で営業利益が決まってくる状態ということになる。

設問2 〔ゲーム理論を用いた事業戦略の検討〕について、(1)〜(3)に答えよ。

(1) 本文中の下線②について、設備投資案の選択にゲーム理論を用いることが有効だったが、それは表1中の景気の見通し及び営業利益の予測がそれぞれどのような状態で与えられていたからか。30字以内で述べよ。

解答

景気の見通しの予測は難しいが営業利益は予測できる

解説

景気の見通しは、問題文中下線②前の『景気の見通しは不透明で、その予測は難しい』から「景気の予測は難しい」ということが分かる。

営業利益の予測は、問題文中表1前の『営業利益の予測は、過去の知見から信頼性の高いデータに基づいている』という所から「営業利益の予測はできる」ということが分かる。

(2) 本文中のabに入れる適切な字句を解答群の中から選び、記号で答えよ。

解答群
ア 混合戦略
イ ナッシュ均衡
ウ パレート最適
エ マクシマックス原理
オ マクシミン原理

解答

a:オ
b:イ

解説

表1を見ると、景気が好転した場合、消極案は3つの案の中で最低値となる。横ばいの場合も最低値。悪化した場合は最高値となることから、「景気が悪化」した場合のことを考えている。
このことから「マクシミン原理」に基づいていることが分かる。

表2下の文章から『両者ともここから選択する案を変更すると全体市場シェアは減ってしまう』とあるので、「ナッシュ均衡」となる。

(3) 本文中の下線③について、このように考えた理由を、25字以内で述べよ。

解答

中高価格帯の商品は粗利益率が高いから

解説

A1案を選択したら営業利益が増加する。何故かは問題に書いてある。
『(1) A1案(中高価格帯に注力):粗利益率が高い中高価格帯の割合を更に増やす。』
これがそのまま答えになる。

設問3 〔事業戦略案の策定〕について、(1)、(2)に答えよ。

(1) 本文中の下線④及び下線⑤の施策について、固定費と変動費の割合の観点から費用構造の変化に関する共通点を、15字以内で答えよ。

解答

固定費の割合の減少

解説

下線④は製造を委託するので、変動費になる。
下線⑤は販売を委託するので、変更費になる。
つまり、固定費だったところを変動費に変えている。

固定費が高いことが問題となっているので、固定費を主にして解答するのが良いと思う。

(2) 本文中の下線⑥について、A社の経営企画部が新たな事業モデルにおいて店舗サービスとECサービスとが両立できると判断した化粧品販売の特性を、本文中の字句を使って25字以内で述べよ。

解答

顧客は実際に商品を試してから購入したい

解説

『例えば、顧客がECサービスを利用して気になる商品があったら、顧客の同意を得てWeb上で希望する加盟店を紹介する。』
この部分からECサービスで商品を買う前に加盟店に行くことになる事が分かる。何のためにお店に行くかと考えると「買う前に試したいから」という事になる。

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